ケイデンス(cadence)とは
PMBOKで言う「ケイデンス」とは、プロジェクト全体を通じて実施されるアクティビティのリズムや周期性を指します。具体的には、プロジェクト成果物の提供タイミングや頻度を表し、プロジェクトの進行における一定のペースや間隔を意味します。
例えば、ケイデンスには以下のような種類があります:
- 単一デリバリー: プロジェクト終了時に成果物を一度だけ提供する形式(予測型アプローチに多い)。
- 複数回デリバリー: プロジェクト期間中に成果物を段階的に提供する形式(反復型や漸進型アプローチに適している)。
- 定期的デリバリー: 一定の間隔で成果物を継続的に提供する形式(適応型アプローチに関連)
このケイデンスは、プロジェクトのライフサイクルや開発アプローチと密接に関連しており、プロジェクトの効率的な進行とステークホルダーへの価値提供を促進する重要な概念です。
「ケイデンス」の使用場面
PMBOKで「ケイデンス」が具体的に使われる場面は、プロジェクトの成果物を提供するタイミングや頻度を計画する際です。以下に詳細を示します:
ケイデンスの具体的な使用場面
- 成果物の提供タイミングの設計:
- プロジェクト成果物をどのような間隔で提供するかを決定する際に使用されます。例えば、単一回の納品(予測型アプローチ)、複数回の段階的納品(反復型アプローチ)、または定期的な納品(適応型アプローチ)など、プロジェクトの性質やステークホルダーの要求に応じてケイデンスが選択されます。
- プロジェクトライフサイクルの設計:
- ケイデンスは、プロジェクトのフェーズやライフサイクルを設計する際にも活用されます。成果物の種類や開発アプローチに基づき、適切なフェーズ分割とその進行リズムが設定されます。これにより、開発、テスト、展開などが効率的に進むよう調整されます。
- ステークホルダーとの価値提供:
- 定期的な成果物提供を通じて、ステークホルダーに継続的な価値を届けるための仕組みとしてケイデンスが活用されます。これにより、ステークホルダーとの信頼関係を構築しつつ、プロジェクトが期待通り進行していることを確認できます。
- アジャイル開発や適応型アプローチへの適用:
- アジャイル開発ではスプリントやイテレーションごとの成果物提供が重要です。この場合、ケイデンスはチームの作業リズムや成果物提供頻度を調整するために使用されます。
具体例
1. アジャイル開発プロジェクト
アジャイル開発では、ケイデンスはスプリントやイテレーションの期間を設定する際に重要です。通常、1〜4週間のスプリント期間が設定され、計画、設計、開発、テストを繰り返すリズムが確立されます。このリズムにより、チームが効率的に作業を進め、定期的に成果物を提供することが可能になります。
2. 新製品開発プロジェクト
新製品開発では、ケイデンスを活用して定期的なミーティングや成果物のレビューを行い、プロジェクトの進捗を管理します。例えば、大手医療技術会社では、新製品開発のR&Dプロジェクトでケイデンスを取り入れ、効率的な業務遂行と繰り返し作業の回避を実現しました。
3. 緊急コンサルティングプロジェクト
保険部門や情報システム部門などで行われる緊急プロジェクトでは、ケイデンスを利用してタスクの進行ペースを管理し、ステークホルダーとの連携や成果物提供のタイミングを明確化します。このリズムにより、リソースの最適化や方向性の再定義が可能になります。
4. 半導体設計プロジェクト
電子システム設計業界では、ケイデンスがEDAツール(電子設計自動化ツール)の使用において重要な役割を果たします。特に3nm以降の半導体設計案件では、設計プロセス全体においてケイデンス製品が活用されており、一貫したリズムで設計作業が進められています。
5. SaaSスタートアップ運営
SaaSスタートアップでは、ケイデンスを利用してチーム間の連携を強化し、タスク管理やコミュニケーションリズムを整えることで効率的な運営を実現しています。これによりカオス状態から秩序が生まれ、組織全体が統一されたペースで動くことが可能になります。
「ケイデンス」という言葉の使い方
それでは、プロジェクトのマネジメントを行うさいに、会議などで「それでは、ケイデンスを設定しましょう。この項目とこの項目について。」などの会話がなされるのでしょうか?
「ケイデンスを設定しましょう」という表現が会議の中で使われるかどうかは、プロジェクトの文化やメンバーの用語理解度に依存します。PMBOK(特に第7版)の概念として「ケイデンス」は重要な要素ですが、実際の会話では、より具体的な内容や活動に言い換えられることが多いです。
以下に、どのような状況で「ケイデンスを設定する」という考え方が会話に含まれるかを具体的に説明します。
1. 会話の可能性と背景
- プロジェクトマネジメントの会議や計画段階で、「成果物提供のタイミング」や「作業リズム」を決める場面で「ケイデンスを設定する」という話題が出る可能性があります。
- ただし、「ケイデンス」という言葉自体が一般的でない場合、次のような具体的な表現が使われることがあります:
- 「このタスクは2週間ごとに進捗確認をしましょう」
- 「成果物は毎月末にレビューできるようにスケジュールを組みましょう」
- 「スプリント期間を3週間に設定して進めます」
2. 実際の会話例
以下は、プロジェクトマネジメント会議での実際の会話例を想定したものです:
例1: アジャイルプロジェクトの場合
- マネージャー: 「それでは、このプロジェクトでは2週間スプリントというケイデンスで進めたいと思います。各スプリント終了時にはレビューと計画ミーティングを行います。」
- チームメンバー: 「了解しました。では、最初のスプリントで取り組む項目を決めましょう。」
例2: 予測型プロジェクトの場合
- マネージャー: 「このフェーズでは、月次レビューというケイデンスで進捗を確認したいと思います。レビューでは、この項目とこの項目について報告してください。」
- チームメンバー: 「わかりました。月末までに必要な資料を準備します。」
3. ケイデンス設定が必要になる場面
「ケイデンスを設定する」という考え方が必要になる場面は以下の通りです:
- スケジュール作成時:
- プロジェクト全体またはフェーズごとの進行リズムを決める際。
- 成果物提供計画時:
- 成果物や中間成果物をどのタイミングで提供するかを決める際。
- ミーティング頻度の決定時:
- 定例会議やステータス報告会など、どれくらいの間隔で行うかを決める際。
- チーム間調整時:
- 複数チームが関与する場合、それぞれの作業リズム(ケイデンス)を調整する場面。
4. 注意点
- 「ケイデンス」という言葉自体が専門的な用語なので、チームメンバー全員がその意味を理解しているとは限りません。そのため、「作業リズム」や「成果物提供タイミング」といったより具体的な言葉に置き換えて説明するほうが効果的です。
- 特にアジャイル開発以外では、「ケイデンス」という言葉そのものよりも、具体的なスケジュールや頻度について直接話すことが多いです。
まとめ
「それでは、ケイデンスを設定しましょう。この項目とこの項目について。」というような会話は、PMBOK的な考え方として正しいですが、実際には「作業リズム」や「進捗確認頻度」など、より具体的な表現に置き換えられることが多いです。重要なのは、「プロジェクト全体のリズムや周期性」を意識し、それをチーム全員で共有することです。